Maison Margiela(メゾン マルジェラ)は1988年の創設以来、“匿名性”と“再構築”を核にモードの常識を揺さぶり続けてきました。タグに記された連番ロゴと背面の四本ステッチは、主張を抑えながら深い共感を呼ぶサイン。男性用スーツにおいても、卓越したテーラード技術とアヴァンギャルドな発想を併せ持つ点が人気の大きな理由です。
メゾンのメンズスーツはパリのアトリエで培われた立体裁断を軸に、裏側の始末や接着芯までも意匠として見せる“デコンストラクション”が特徴。肩パッドを極力そぎ落とし、身体の動きを妨げない軽さを実現する一方、遊び心あるステッチワークでクラシックにひと匙の違和感を添えます。こうしたアプローチは公式コレクションのテーラリングライン(通称ライン14)に色濃く表れ、シーズンごとに素材やディテールを更新するため、他ブランドのような固定モデル名は設けられていません。
代表的デザインを三つ挙げてみましょう。第一にダブルブレストのウールスーツ――品番「S50BN0527」などで展開される一着で、深めのVゾーンと絞り過ぎないウエストラインがエレガンスを演出します。第二にシングル二つボタンのトロピカルウールスーツ。軽量生地と控えめなパッド構造により、盛夏でも快適かつ端正なシルエットを保つ点が魅力です。最後は“トロンプルイユ”プリントをあしらったアーティスナルなセットアップ。スクリーンプリントでシャツやベストの影を写し込み、視覚的レイヤリングを楽しめるマルジェラらしい提案です。
いずれのデザインにも共通するのは、背面にだけ施される四本ステッチとナンバリングラベルが示す“作者不在”の精神。伝統を踏まえながら固定観念を解体する姿勢が、ビジネスシーンからドレスアップまで幅広い着こなしに現代的な奥行きを与えます。合わせるインナーを極力ミニマルに抑え、生地の質感とシルエットを引き立てる着方こそ、メゾンのスーツを最大限に堪能する近道と言えるでしょう。